子どものSNS利用を考える

今月、メディアでも大きく話題になっていた「オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁止する法律」が、実際にスタートしました。
禁止対象となっているSNSには、YouTube、Instagram、X(旧Twitter)、TikTok、Threads、Facebook、Twitchなど、日本でもおなじみのサービスが並んでいます。さらに、Reddit、Snapchat、Kickなど、日本では比較的なじみの薄いものも含め、現時点で約10のSNSプラットフォームが該当しているそうです。
子どもたちは、規制対象外の別のプラットフォームへと移っているとも言われており、今後この「禁止リスト」はさらに拡大していく見通しとのこと。
個人的には、プライベートメッセージ機能のあるSNSだけでなく、YouTubeも対象になっている点に、少し驚きました。
Redditによる提訴
今回の法律をめぐっては、Reddit(アメリカ版Yahoo!知恵袋のような掲示板型サイト)が、オーストラリア政府に対し、違憲審理を求めて提訴したというニュースも報じられています。
Reddit側の主張を読み解くと、
- Redditの特性は、このSNS禁止法の想定する「問題のあるSNS」に該当しないのではないか
- プライバシーや表現の自由を侵害する可能性がある
- 「若い世代を守る」ためには、他にもより効果的な方法があるのではないか
といった点が挙げられています。
"We believe there are more effective ways for the Australian government to accomplish our shared goal of protecting youth, and the SMMA law carries some serious privacy and political expression issues for everyone on the internet," Reddit said in the court filing.
"This law is applied to Reddit inaccurately, since we're a forum primarily for adults and we don't have the traditional social media features the government has taken issue with."
-ABC News, Australia "Reddit files legal challenge against social media ban for under-16s"
これに対し、オーストラリア政府は「守るべきなのはプラットフォームではなく、親と子どもだ」として、真っ向から争う姿勢を見せているとのことです。
なぜ、ここまで強い規制に至ったのか
すでにこの規制に疑問を呈する声もありますが、法制化に至るまでの背景をたどると、SNS被害に遭った子どもを持つ家庭が、長年にわたり強く声を上げ続けてきた歴史がありました。
代表的なものとして、
- カーリー・ライアン事件(15歳の少女がSNSを通じて殺害された事件)
- Let them be Kidsキャンペーン(SNSを苦に自死した子を持つ家庭とメディアが協力したキャンペーン)
- Unplug24(SNSでの性被害を苦に亡くなった息子のため、父親が始めた「24時間デジタル機器から離れよう」という取り組み)
などがあります。
オーストラリアは、市民の声が政治を動かす国、という印象があります。原子力発電も市民レベルでの強い反発があり、現在も法律で禁止されています。
今年の選挙では、野党がエネルギー対策として原発を公約に掲げ注目されましたが、結果的に与党が勝利しました。世界最大級のウラン産出国であることを指摘する報道もありますが、それでもなお「持ってしまったら終わり」という感覚が、国民の判断の軸としてあるのかもしれません。
そうしたオーストラリア独特の“判断基準”が、今回のSNS禁止法にも通じているように感じました。
SNSを規制すれば、子どもは守られるのか?
「では、SNSを規制すれば、子どもは守られるのか?」
このシンプルな問いに対する私の答えは、「YES」です。
子どもたちが直面する危険はSNSだけではありませんが、少なくともSNS由来の事件や事故、被害からは、確実に子どもを遠ざけることができます。
問題はSNSそのものというよりも、「SNSという広く雑多な世界に、子どもをそのまま放り出してしまうこと」の危険性だと思います。
誰も、自分の子どもを歓楽街のど真ん中に立たせて、「自由に遊んでおいで」とは言わないですよね。
SNSの世界も同じです。むしろ実社会以上に、誰が、どこで、どんな意図を持って近づいてくるのかが見えません。大人でも見抜けないことを、子どもが判断するのはなおさら難しい。
そう考えると、「君子危うきに近寄らず」という発想――そもそも距離を取る、という選択に、個人的には賛成です。スティーブ・ジョブズが、自分の子どもにモバイル端末を与えなかったという話もよく知られています。
現実とのギャップ
一方で、現実はそう単純でもありません。
総務省の「令和7年度 情報通信白書」によれば、モバイル端末の保有率は97%、スマートフォンは90%を超えています。別の調査では、10代〜20代のスマホ保有率はほぼ100%とも言われています。
オーストラリアの取り組みには一目置きつつも、日本の、そして自分自身の生活に置き換えてみると、複雑な思いになる部分もあります。
人との交流手段として、SNSはもはや無視できない存在であり、子どもたちの世界にも深く入り込んでいるからです。

まとめ
今回は、オーストラリアで始まったSNS禁止法について調べながら、感じたことを書きました。
日本では「賢く使わせる」という考え方が主流だと言われています。言いたいことは理解できますが、同時に、少し違和感も覚えます。
「誰が」「どの立場で」それを言っているのだろう、と。
デジタルに関しては、正直、子どものほうが圧倒的に詳しい。大人はかないません。
問題は「使い方」ではなく、「関わり方」なのではないでしょうか。
SNSがコミュニケーションのツールであるなら、親と子もまた、SNSを通じてコミュニケーションを取れる関係でありたい。賢く使うためには、大人のフィルター――フィルタリングやペアレンタルコントロールといった仕組みを、ある程度取り入れることも必要です。
それらを活用しながら子どもと話し合い、共通認識を持ったうえで使うこと。そして、日常の中で親子の関係性をしっかり築いておくこと。
SNSに触れる前に、そうした土台がきちんと整っているかどうかが、いちばんの問題なのではないかと感じています。


